未来のアンティーク
「ブローチのお直しをしたい」とお声かけいただいた時、まさかこれ程のお品をお預かりするとは思っていませんでした。
K18WGを土台にしてダイヤモンドとサファイアがセッティングされ、フルオーダーで仕立てられたいわゆる「1点もの」でした。植物がモチーフの有機的なデザインで立体感ある作りが素晴らしく、お母さまが長年愛用されていた様子がわかります。
お会いしてお預かりしたブローチはサファイアが取れていると伺った通り、ペアシェイプ型(雫型)のサファイアが1ピースなくなっています。爪が何かに引っ掛かったのか開いているため、サファイアが外れてしまったと思われます。
このブローチに用いられているサファイアはこれだけ多くのサファイアを使用しているにも関わらず、色も形も揃えられていました。なくなってしまったサファイアも色と形を合わせて、ご準備いたしました。
他のサファイアにサイズと色を合わせてご用意
シングルカットのダイヤモンド
ルーペで確認してみますと、弧を描いた枝部分にライン状にセッティングされたダイヤモンドも1ピースなくなっていました。驚いたのがシングルカットのダイヤモンドが用いられていたこと。
ご高齢のお母さまが長年ご愛用されていたことを考えれば当然ですが、アンティークジュエリーでよく用いられた「シングルカット」のダイヤモンド。今でも一部のジュエリーや高級時計に用いられることはありますが、ダイヤモンドのカットの主流は58面体「ブリリアントカット」です。
シングルカットはブリリアントカットよりもダイヤモンドの面が少なく、小さなダイヤモンドに用いるとダイヤモンドの美しさを最大限引き出すと言われます。ダイヤモンドのサイズが小さくなるとカットされたそれぞれの面が小さくなるため、小さなダイヤモンドの場合は面が小さくなりすぎないシングルカットを用いると光の反射からダイヤモンドの輝きが引き立ちます。
ダイヤモンドも1ピース外れていました
小さなダイヤモンドですし、外れた部分に現在主流のブリリアントカットのダイヤモンドを留めても大半の方はお分かりにならないと思います。それでも輝き方が違うそれぞれのカット。
どちらも素晴らしいのですが、お母さまから受け継がれたお客様ご自身がこれから身に着け、そしてその次の世代へも引き継がれていき、「未来のアンティーク」となっていくであろうこのブローチを、可能な限り最初仕立てられた姿に戻したいと思いました。
お客様にブリリアントカットとシングルカットのダイヤモンドについてご説明し、シングルカットダイヤモンドを手配するお時間を頂戴しお直しさせていただきました。
修理内容
こちらの修理は1級技能士である職人さんにお願いしました。この時代の作りをお若い頃に経験された最後の世代の職人さんかもしれません。とても懐かしがって楽しんで修理くださいました。
石揺れが他にないか、緩んでいる爪はないか、今後も安心して長くご愛用いただけるようにチェックいただき、ホワイトゴールドの地金には再メッキ(ロジウムメッキ)を施していただきました。お客様に大変お喜びいただけただけでなく、私自身も楽しみと多くの学びのあったお修理でした。
お客様が受け継がれたブローチを大切に感じているように、きっといつかまた次の世代に安心して引き継げるように・・・・・。
未来のアンティーク
*本記事の掲載にはお客さまのご了承を得ています。
hitsukiでは眠っているジュエリーのRepair(修理)やRemake(作り替え)をお受けしております。